犬の応急処置

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NPO法人災害救助犬協会新潟

はじめに
この情報は、元々人間の心肺蘇生術を含む救急救命等の知識を持った災害救助犬のハンドラーを対象として、 屋外での応急処置方法が紹介されています。捜索作業は犬とハンドラー双方に危険がつきまとうものです。 ハンドラーが人間に対する応急処置を取得していなければならないように、犬の救急処置についてもその方法を 知っていなければなりません。予防的な健康管理が基本です。獣医師による定期検診は必須事項です。定期的な ワクチン接種、さらに必要なワクチンの接種を受けなくてはなりません。救急処置が獣医師による治療の代用と なることはありえません。応急処置をほどこした後、速やかに専門的な獣医師の診察を受けるべきです。

屋外用応急処置セット(セットの詳細は別項参照)
外出時、このキットをいつも持ち回ります。屋外用応急処置セットは最少サイズのセットと、屋外での緊急時 処置で使うものだけにして、小さくします。薬品と必需品は永久に使えるものではありません。全薬品の有効期限が 必ず明記してあるようにします。テープはビニール袋に入れ、乾燥を防ぎます。覚えておかなくてはならない もっとも重要なことは、応急処置の必需品を使い切ったら、できるだけ早く補充することです。

知っておくべきデータ
犬によって正常値は違いますから、あなたの犬の平常時の数値を記入してください。印刷して記入し、 応急処置セットに入れておきます。
(犬名) _________________________の通常値  年齢______ 歳

記入日____________________

安静時の脈拍数(1分間)_______________

安静時の呼吸数(1分間)___________

安静時の体温__________

粘膜色 ________________________

末梢血管再充填時間(CRT)_____________________________

5〜10分走った後の脈拍数(1分間) ___________

5〜10分走った後の呼吸数(1分間)____________

5〜10分走った後の体温_________

犬の正常値

末梢血管再充填時間(CRT)(註1) 1秒以下
粘膜色 一般的にピンク
体温(註2) 38.3〜38.9度
正常時の脈拍数 子犬 110〜120/分
大型犬成犬 60〜80/分
小型犬成犬 80〜120/分
呼吸数(註3) 子犬 20〜25/分
成犬 14〜16/分
脱水症状の有無(註4) 皮膚を摘んで離して、1秒以内に戻る
註1
末梢血管再充填時間(CRT)は歯茎を押さえることで測ります。指を1本使って、指の下の歯茎が白くなるまでしっかり 押さえてから離します。色が回復するまでの時間を見ます。同様に、犬の歯茎と舌の色にも気を付けます。犬の歯茎の色は 黒からピンク、ラディッシュブラウン、いろいろな色の組み合わせがあります。
註2
体温は成犬用直腸体温計で、直腸で測ります。その状態で1〜2分押さえておきます。もし温度が37.8度以下なら、十分な 時間直腸に入っていることを確認しながら再度検温します。人間と違い、興奮しているときは、かなりの上昇を伴います。 これは、下の脈拍数にも当てはまります。
註3
脈拍と呼吸数は犬によってさまざまで、休息時か運動時でも異なります。ですから、両方の場合の通常値を知っておくのが良いでしょう。
註4
これが遅くなっているときは、すでに重大な脱水症状を起こしています。口腔内の乾燥や、目の乾燥のほうが早く現れます。

犬の骨格

ショック症状
ショックとは、血液循環が有効に行われず、生命維持に必要な身体機能が低下した状態によって引き起こされる症状です。 すぐに処置を行うことによって、回復させることができますが、そうでなければ命を脅かす状態です。ショックの原因と しては、深刻な血液の喪失、やけど、外傷、ヘビによる咬傷、毒、酸素欠乏、下痢を伴う嘔吐などがあげられます。

ショックの症状には以下があげられます:
・歯茎/ 目の縁の内側が青ざめる、末梢血管再充填時間(CRT)が2秒以上
・唇と歯茎の乾燥、脱水症状 ・毒によっては多量のヨダレ
・大腿部の脈が弱まり、1分あたり150〜200の速度になる
・心拍数が増える
・末端部分が冷たくなる
・呼吸過多、通常1分あたり25回以上の早い呼吸
・混乱、落ち着かない、不穏状態
・全体的に元気がない

ショックが進んだ状態:
・動けなくなるか反応がない、意識がないところまでぐったりして元気がなくなる
・瞳孔の散大
・毛細血管補填時間が4秒以上になる
・粘膜が白くなる
・直腸での体温が36.7度以下にさがる

救命処置
・ABC's :Airway(気道確保)Breathing(呼吸確保)Circulation(循環確保)
・換気を良くする
・出血を抑える
・犬をおとなしく落ち着かせて、それ以上のけがを防ぐ
・体温を通常に保つ
・獣医に連れていき、補液と処置を開始

犬の健康に関する救急対策は基本的には人間の医学的ガイドラインと同じです。捜索に従事するスタッフは人間に 対する応急処置を行えることが要求されていて、これは救急処置でのABCです。同じ優先順位の処置が犬にも当てはまります。

医療の最も重要な法則は「傷つけない」ことです。負傷し怯えている動物の治療にあたって、「すべての犬が噛む 可能性がある」ことを心にとめておいてください。いかに傷ついたその犬をよく知っているとしても、犬には口輪を はめるべきです。特に、傷ついた犬を搬送する必要のあるときや、傷の痛みに苦しんでいるときは。

最も簡単ですばやい口輪のしかたは、5cm幅の布・ガーゼ・紐などを使って犬のマズルの周りを回して上でひと結びします。 両側をマズルの下に回してクロスし、さらに耳の後ろに持ってきて犬の頭頂部の下でしっかり結びます。あなたの犬が健康な ときこの方法を練習しておくとよいでしょう。

注意:犬が嘔吐したり、呼吸困難がある場合は口輪はしてはいけません。

心肺蘇生術と人工呼吸

気道確保
呼吸をチェックするために、頬を犬のマズル近くに寄せて、犬の胸郭が上がり下がりするのを観察し、息が吐かれるのを 感じます。もしメガネをかけていてレンズが曇ったら犬が呼吸をしていることの指標になります。

最初に優先するべきものは、ふさがってない気道を確保することです。頭と首を伸ばすことで気道を開きます。 口に異物がないかチェックして取り除き、舌を前方にひっぱります。

呼吸(マウス・ツー・ノーズ)

呼吸の兆候があるか目と耳で確かめます。まったくなかったら、両手をカップのようにしてマズルの周囲にかぶせマズルに 密着させて保持し、空気が逃げるのを防ぎ効果的に鼻孔に息を送り込めるようにします。鼻腔から1分間に15から20回息を 吹き込みます。胸郭はあなたが肺に空気を送り込んだら拡張します。次の吹込みの前に適切なガス交換が行われるように、 確実に肺が受動的にしぼむようにします。小さい動物には強く吹き込み過ぎないようにします。

口鼻呼吸ができなかったり不可能な状態のときには別な方法で行います。

犬を右側臥位(右側を下)に横たえ、頭と頚部脊椎と同じ直線状になるようにします。舌を前方に引き出します。 両手を胸郭の上、最後の肋骨より少し前方におき、12回/分で胸を圧迫します。

心肺蘇生(CPR)
心機能をチェックするため右側を下にして犬を硬いところに横たえます。犬の大腿部の内側で大腿動脈の拍動を感じるか、 肘のすぐ後ろで肘ライン上の心臓の鼓動を直接触れてみてください。脈拍を触れなければ心肺蘇生を開始しなくてはなりません。

心臓は両側から圧迫するのが最も効果的です。というのは、これが胸郭の細小の動きで済むためです。あなたの手の手根部で 圧迫するよりも、広く開いた手全体を使ってください。

11kg以上の犬の場合は、硬い表面の上に右側臥位にし、胸郭の一番広いところを圧迫します。(小型犬の場合は、両手で 胸郭を挟んで直接心臓部を圧迫します)1分間に80〜100回の割合で圧迫します。呼吸と心臓圧迫の割合は4回の圧迫に1回の呼吸です。

心臓マッサージの効果をみるため脈拍をチェックし、充分酸素化が行われているか粘膜の色と再潅流(歯茎を指で圧迫して離し、 白からピンクに色が変わる時間をみる)を調べます。

人間と胸の形が違うので難しいですが、人間と同じ要領です。位置や圧力の強度等、是非獣医師から指導を受けてください。

心臓の位置

肩関節を90度、肘関節を90度にして、肘関節が当たる場所に心臓があります。日常から位置を確認しておくことは良いことですが、 必要がない場合には決して犬にCPRを試みようとはしてはいけません

意識がない場合の搬送方法

1人の場合
1人で運ぶ場合は、片腕を犬の胸、残りの腕を犬の太股の裏側に回して抱える方法と、犬の体の下に頭を入れて、 そのまま持ち上げるという方法があります。日常でも練習は可能ですが、健康な犬は後者の姿勢が快適とは言い難いと いうことをお忘れなく。

2人以上の場合
犬の体の下にバスタオルやシーツなどの布をもぐらせ、四隅を2人で持って運びます。荷物が増えてもかまわない自宅や 車載セットには、取っ手のついた専用の布を購入または作成して準備しておくのも方法です。入手できれば、丈夫な板等の上に タオルごと乗せて運ぶとより安定します。段ボールは手が滑りやすくなり、破れるおそれもありますのでお勧めしません。

けがと出血

擦り傷

・通常は生命の危険を伴わない
・多少出血する
・常に感染症の可能性がある

処置
慎重に異物を取り除く
必要に応じて、周辺の毛を切る・刈るなどの処置を行う
まず多量の水で傷を洗浄し、さらに入手できればクロルヘキシジン(消毒薬:かかりつけの獣医師と相談して 選択して下さい)、またはヨード液のスクラブか水溶液を使用する(濃い濃度のイソジンなら薬局で売っています)。 入手できなければどんな石けんでも有用。水溶液は洗い流す必要はないが、スクラブは十分に洗い流さなくてはならない。

大きな裂傷と出血

・命を脅かすこともある
・獣医での縫合が必要な場合もある

処置

止血 1. 傷にガーゼなどを当てて、その上から圧迫する
 2. 心臓より患部を上に上げる
 3. 止血点を押さえる(身体にはいくつか止血しやすい場所があって、そこを押さえる。たとえば、脇の付け根とか)
すぐに専門家の助けを得ること。上記の裂傷処置も参照。

包帯の原則

・さらなるけがや感染症から傷を守る
・舐めにくくする
・動きを制限する
・添え木を固定する
・体重がかからないようにする
・浮腫と止血のための圧力を供給
・確実につま先まで循環するように、クッションの役割をするパッドを使用(末梢まで血液が回らないといけない ので 確認するようにします)

脱臼および骨折と骨折の疑い

兆候と症状

脱臼
・痛み(ただし、痛みを外に見せない犬がたまにいます)
 ・局所の腫れ
 ・関節機能の異常
 ・異常関節肢位
 ・異常角度
 ・脚長の短縮
初期処置はできるだけ犬を楽な状態に保つこと。脱臼の整復は通常全身麻酔が必要なため獣医師に連絡をとり速やかに 搬送する。
骨折
・痛み(ただし、痛みを外に見せない犬がたまにいます)
 ・局所の腫れ
 ・局所のギシ音(骨折部の骨がこすれる音)
 ・機能低下
 ・関節と関節の間の異常な曲がりと異常な動き

初期処置は、損傷がさらにひどくならないように予防し、犬を快適な状態におくことです。
皮膚の上から骨を押し戻したりしない。 患部を固定する副木は適切な材料を使用します。(丸めた新聞紙・木片・ダンボール)
綿や布で骨折部をパッドとして被い、副木をあて、テープや布、ロープなどで固定します。 骨折部の上の関節と下の関節を固定します。その他、腫脹を減らし予防する副木として効果的なものに ロバーツ・ジョーンズ包帯法があります。

できる限り迅速にふさわしい設備のある施設へ移送

緊急時と外傷

ヘビによる咬傷

兆候/症状

・痛み
・昏睡
・嘔吐
・下痢
・ヨダレを垂らす、のどが渇く
・咬まれた周辺が腫れる
・ショック
処置
獣医に連絡をとり指示を求める。ヘビの種類を確認できれば知らせる。

ハチによる刺し傷

兆候/症状

・痛み
・腫れと発赤
・顔をひっかく
・空気に噛みつく
処置
針を見つけたら抜く。刺し傷は冷やすことで軽減される。抗ヒスタミン剤(8時間毎に経口で塩酸ジフェンヒドラミンを2〜4/kg)を経口で与える。腫れが持続/悪化するか刺された箇所が心臓/首/喉部分の場合は、獣医師に相談する。

熱射病

兆候/症状

・疲労
・繰り返しの卒倒(これは相当な重症)
・粘膜の発赤(歯茎)
・異常にハァハァする
・脱水
・震え
処置
日陰に移し、犬を休ませて、水を少量与える(軽い場合)。犬の状態が改善しなければ、獣医師の治療を受ける。速やかに搬送する。早ければ早いほうが良いでしょう。

熱中症で間に合わなかった犬も少なからずいます。大きな犬でも要注意。夏は夕方でも要注意です。

熱中症(ヒートストローク)

兆候/症状

・異常にハァハァする
・直腸検温で摂氏40.6〜41.1度以上になる
・失見当識
・元気喪失
・脈/呼吸が速くなる
・粘膜がどす赤くなる
処置
犬を日陰につれていき、可能なら水に浸からせる。人間と同じ予防措置を行い、氷水には浸けない。ゆっくりと体温をさげていき、冷たい水に全身を浸す。氷は慎重に腋下、頭部、頸部、鼠径部に用いるが、必ず布に包んでからにすること。体温を観察し、冷やしすぎないようにする。獣医へ移送する。

鼓腸症
鼓腸症は胃の拡張/捻転の一般的な用語です。これは大型で胸の深い犬でもっとも多く見られます。胃の拡張は、胃が正常な容積を超えて大きくなることです。胃拡張捻転は、胃が実際に自らひっくり返る時のことです。
これは命に関わる状態です

兆候/症状

・空吐き/何も出ない嘔吐
・じっとしておらず常に体位を変えて動く
・不穏状態
・腹部拡張(硬化)
・多量のヨダレ
・脱力
・ショック
治療
迅速に獣医へ搬送!!
予防
食事の回数を少なくとも1日2回にする(午前/午後)。一度に大量の水を飲ませないようにして、頻繁に水を与える。食事の前後1〜2時間は運動を避ける。

兆候/症状

・呼吸困難
・異常行動
・消化不良
・速い、弱いなどの心臓異常
・震え
・痙攣
・ヨダレ
毒にはたくさんの異なったタイプがあり、それぞれが違った影響を犬に与える。多くはすぐに症状が現れない。(日本の場合、ポイズン・コントロール・センターに相当すると思われるのに「つくば中毒110番」「大阪中毒110番」等がある。しかし残念ながら24時間の受付ではない)

ASPCAのポイズン・コントロール・センターでは電話連絡の際、以下の情報を告げるようにサイトで紹介されています。

・名前、住所、電話番号
・毒に関する情報(毒の量、毒を摂取/接触してから経過した時間等)。多くの理由から、どのような毒を摂取/接触したかを正確に知ることが重要になります
・犬種、年齢、性別、体重、頭数
・わかっていれば摂取/接触した毒
・それまでの異常な症状

屋外用応急処置セット

これはあなたが屋外で持ち歩くとよい応急処置セットの装備と必需品のリストの例です。「*」マークは獣医から入手する 必要があるものを示しています。獣医師と、あなたの犬にはどのようなケースが発生する可能性があるか相談します。 屋外用セットはできる限り小さく、軽くした方が良いということを忘れないで下さい。緊急時に必要になるもののみを持ち運びます。 あなたの車用の荷物に、余分のテープや包帯、巻きコットン等の予備の応急処置の必需品を入れるようにすると良いでしょう。 車から離れたところへ行く可能性がない場合は、車用のセットを作っておくだけで良いかもしれません。

毛抜き
止血鉗子 / 鉗子
ハサミ / 緊急用大ハサミ
体温計
安全ピン
3" x 3" (7.4cm) ガーゼスポンジ
エース伸縮性包帯
三角巾
バンドエイド
2" (5cm) 巻きガーゼ / 形に合わせて伸縮する包帯
サム・スプリント
1" (2.5cm) 粘着テープ
検査手袋
粘着性のないドレッシング / テルファ / リリース
2"(5cm) 巻きメディリップ / ベトラップ / コフレックス
ヨード液
虫さされ用薬(人間よりもしみることを嫌います。臭いも気をつけて)
アスピリン(準備前に獣医師に相談した方が良いでしょう)
潤滑剤
抗ヒスタミン剤(経口) (2-4mg/kg)(準備前に獣医師に相談した方が良いでしょう)
*抗生剤 (アンピシリン / テトラサイクリン)
* 外用薬、軟膏(抗生物質入り) (パナログ / トリトップ / ネオマイシン / ネオスポリン / ゲンタシン / VG軟膏等)
* 抗生剤入り眼軟膏 (マイシイトラチン / テラマイシン / エリコリ眼軟膏等)
* ステロイド (プレドニゾロン)
* 下痢止め
* 犬に吐かせるための嘔吐剤 (現在はオキシドールで代用の場合が多い。要相談)

かっこ内のアイテムは単なる例です。あなたの獣医は別の薬品や製品を持っているかもしれません。しかし、まずは動物病院に移送することを考えてください。そして使い方は獣医師によく指導を受け、熟知しておいてください。

 イラスト提供:ぴー